【相談事例①】業務依頼でも大変多い就業規則の改訂


「就業規則」の基本ルールと活用法について

たびたび行われる法改正に追いつかない。作成はしたが実務上であまり見ていない。どこからどこまで規定内容を整えれば良いのか。法律に基づく社内資料として、自社の就業規則は有効なのか確認したい。
就業規則の法律要件を紐解きながら、そんな疑問に答えます。

『就業規則』作成・改定の実務

いきなりですが、労使争議の裁定のために裁判官は会社の就業規則を確認することを知っていますか?
つまり、就業規則は社会的規範のみならず、法的規範としての拘束力を有し、職場の規律を労使で共有する重要な書類となるのです。

しかし、『就業規則』の作成にはどのようなルールがあるのか?どこからどこまで定めれば良いのか?…分からないことも多いかと思います。
そこで、さまざまな疑問や不明点について、事業主の表と裏の思いにも着目しながら解説していきます。

よくある『就業規則』に対する疑問

このような疑問には、まず労働基準法をヒモ解いていきます。
ただし、ここでは手順のみ簡略化して説明します。(条文リンクは確認したい方用)

労働基準法第89条…『就業規則』作成及び届出の義務

『就業規則』はどのような事業所がどのような手続きを行うか?(労基法89条より)

事業所 常時10人以上の従業員を使用する事業所
手続き
  1. 『就業規則』を作成
  2. 労働者代表の意見聴取
  3. 意見書を添え管轄の労働基準監督署へ届出(届出用紙
  4. 従業員への内容の周知(社内オンライン掲示、書面交付、ほか)

「常時10人以上の従業員を使用する…」とは

常態として10人以上の従業員が働いている事業所のことです。

正規・非正規は問いません。例えば、出勤日数の少ない短期アルバイトが、人が入れ替わりながら常に10人働いていれば、“常態として10人”が働く事業所として、「就業規則」の作成・届出義務が発生します。

また、「事業所」とは場所単位でみます。会社ごとではありません。なので、5人の従業員を使用する店舗を3店舗運営する会社には、「就業規則」の作成・届出の義務は発生しません。(もちろん何らか会社の規則は必要と思いますが)

「労働者代表」の選任については、別の規定に基づき、適法に進める必要があります。それについては、別ページにて説明します。

「労働者代表」の選任については、こちら
愛知県内「労働基準監督署」所在地・管轄エリアについては、こちら

従業員への周知方法

労働基準法第106条、および労働基準法施行規則第52条の2に、「周知」の方法が以下のように例示的に列挙されていますが、これらに限られたわけではありません。
(第106条は読みにくいの省きます)

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
  2. 書面を労働者に交付すること。
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

これらは企業規模にもよると思いますが、各事業所内でファイリングして書棚に置いて置くでも良いですし、入社の雇用契約手続きに際し、就業規則の書面を交付してポイントを説明すれば丁寧ですね。最近では、社内イントラやコミュニケーションシステム内にファイリングしているケースも多いかと思います。大きな改正が行われたときは、社内研修を行うことをおススメします。

なお、行政通達ではこの「周知方法」について、『労働者が必要な時に容易に確認できる状態にあることが、「周知させる」ための要件ある』としています。(平11.3.31 基発第169号)また、周知されていないと認められる「就業規則」は無効となった判例がありますから、注意が必要です。

『就業規則』にはどこからどこまでを規定するのか

絶対的必要記載事項

  1. 始業・終業時刻及び休憩時間、休日、休暇、交替制に関する事項
  2. 賃金の決定・計算・支払方法、締切り及び支払時期、(昇給について)
    ※昇給については口頭でも可
  3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的必要記載事項

  1. 退職手当に関すること
  2. 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関すること
  3. 従業員負担(食費、作業用品など)
  4. 安全衛生に関すること
  5. 職業訓練に関すること
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助
  7. 表彰及び制裁制度
  8. その他全労働者に適用される事項

上記のほか、「記載するかどうか自由な事項(任意記載事)」があります。〔服務規律〕〔人事異動〕〔副業〕〔競業避止義務〕…ほか、さまざま必要に応じて規定できます。

はじめて『就業規則』を定めて以降、内容に変更が生じた場合、各規定文の改定作業を行い最初と同じ手順(手続2.3.4)を踏んで、改定後の「就業規則」に添えて、管轄労働基準監督署に届出て改定作業を終了します。その後の社内研修等は、必要に応じ行ってください。

法律改正の記載漏れがある「就業規則」は有効か?

頻繁に行われる法律改正を、常に網羅した「就業規則」を整えておくことは実務上なかなか難しいかもしれません。これについては、労働契約法にその定めがあります。

労働契約法第条13条…法令等と就業規則との関係

要は、「就業規則」の法令に反する部分については適用しない、としておりその部分のみが無効、無効になった内容は法律に置き換えられることになっています。したがって、「就業規則」の違反の無い部分は有効です。

就業規則改定の実務についてのご提案

しかし、冒頭でも述べましたように、労務紛争にでもなれば裁判の裁定の基礎情報とされる重要な書類であり、法的規範性を有するものです。常に、法改正を意識して刷新できると良いものです。そうはいっても、実務上は難しいのが現状でしょう。そこで、年に1回時期を定めて、改定検討の機会を設けると良いでしょう。また、常に相談できる社会保険労務士を持っておくことをおススメいたします。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。